「回転できる2つの軸に固定する剛体に凹凸面(歯)を設け、一方の凸面が相手の凹面に次々に入り込んで、すべり接触を行うことによって、1つの軸から他方の軸に回転運動を伝達する機械要素…」
これは歯車という言葉の定義です。かなり専門的な表現ですが、要するに歯車とは歯が噛み合うことによって動力を伝達する製品です。
歯車の形状や歯のピッチによって、回転運動を違う運動に変換したり、運動の向きを変えたり、さらには回転速度や力の強さを変換したりすることもできます。
動力を伝達するために用いられる製品は他にもあります。ローラーやチェーン、ベルト、ロープなどが挙げられますが、確実に動力を伝達する点においては歯車が最も優れているため、幅広い用途に利用されています。
歯車は、形状や用途、材質などによって様々な種類に分けられますが、歯車軸によって分類すると大きく3種類に分けられます。
歯車の起源をたどると、紀元前350年にまでさかのぼります。古代ギリシャの哲学者アリストテレスの文献に歯車についての記述があります。イラクのクテシフォン遺跡でも紀元前のものと思われる歯車が発掘されています。
日本でも歯車は多くの用途で用いられており、江戸時代になると製粉などの動力として水車が使われる際に本格的な歯車が設置されていました。
15世紀後半にイタリアで起きたルネッサンスにおいて、レオナルド・ダ・ビンチが現在も使われている歯車の原型となる歯車をいくつも考案しており、これは歯車の歴史において大きな出来事となりました(平歯車やラック、ベベルなどはこの時期に考案されました)。
歯車の歯の大きさを示すために使用されている単位が「モジュール」「ダイアメトラルピッチ」「円ピッチ」です。
モジュール(m)
歯の大きさは、モジュール(m)で表すのが一般的です。
このモジュールはπ倍すれば歯車の基準ピッチP(円ピッチ)になるように決められた、歯の大きさを表す単位です。
ピッチ=π×モジュール(m)
ダイヤメトラルピッチ(DP)
基準円直径1インチ(25.4)当たりの歯数で表します。
歯の大きさを表す単位として、アメリカやイギリス等のインチ圏ではダイヤメトラルピッチが多く使用されています。
モジュール(m)との換算式
モジュール=25.4(1インチ)÷ダイヤメトラルピッチ(DP)
円ピッチ(CP)
送り機構において、容易にぴったりした送り量(円ピッチP×歯数Z)を得られるようにした、歯の大きさを表す単位です。
円ピッチ(CP)=π×モジュール(m)
歯車の歯には、大きく分けて「インボリュート歯形」と「サイクロイド歯形」があります。動力伝達用に用いられることが多いインボリュート歯形の特徴は、インボリュート曲線という曲線になった歯形になっていること。直線的に作られた歯形と違ってスムーズに歯形が噛み合うことや、歯が丈夫になるというメリットがあります。
素材は歯車の強度を決定する上で重要な要素です。強度や市場の流通量などの理由から「S45C」という炭素鋼や、「SCM415」という合金鋼がよく用いられています。鋼鉄以外では、ウォームホイールなどに用いられるアルミニウムや銅合金。さらに重量が軽いことからOA機器などに用いられるプラスチック材料などがあります。
金属には熱処理(焼き入れ)を行うと組織が安定し、強度が増すという特性があります。かつて刀鍛冶は燃えさかる炎で焼き入れを行っていましたが、現在では焼き入れの技術も向上しており、高周波によって加熱する「高周波焼き入れ」や材料に炭素をしみ込ませる「浸炭焼き入れ」などの方法があります。これらの処理によって金属に粘りが生まれ、強度が増すのです。
「静か」「丈夫で長持ち」「大きな動力を伝達できる」「小型・軽量」…これらが満たされていることが、良い歯車の条件だといえるでしょう。
また、歯車を長持ちさせるためには、焼き入れによって強度を上げるだけでなく、精度を高めることによって磨耗を最小限に抑える必要があります。歯形が正しいインボリュート曲線であること、歯すじに誤差がないこと、歯当たりが良いこと(歯の中心にもう一方の歯が接している)、ピッチ誤差が少ないこと、歯車の中心が偏っていないこと…。良い歯車を作るためには、これらの条件を満たす高い精度が求められます。